大阪地方裁判所 平成2年(ワ)2886号 判決
大阪府枚方市北山一丁目八番一号
共英土木工学株式会社承継人
原告(反訴被告)
共英産業株式会社
右代表者代表取締役
岡田久男
右訴訟代理人弁護士
後藤次宏
大阪府泉大津市宮町一二番二三号
被告(反訴原告)
株式会社田中
右代表者代表取締役
田中武
大阪府泉大津市北豊中町一丁目五番三三号
被告(反訴原告)
田中武
右両名訴訟代理人弁護士
栗原良扶
同
飯村佳夫
同
水野武夫
同
田原睦夫
同
増市徹
同
木村圭二郎
同
森田英樹
同
印藤弘二
被告両名輔佐人弁理士
蔦田正人
主文
一 原告(反訴被告)の本訴請求をいずれも棄却する。
二 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)株式会社田中に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告(反訴原告)株式会社田中のその余の反訴請求及び被告(反訴原告)田中武の反訴請求は、いずれもこれを棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その四を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの連帯負担とする。
五 この判決は、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
(本訴)
一 被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)らは、別紙物件目録記載のやしマットを製造、販売してはならない。
二 被告らは、原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)に対し、連帯して金五八八〇万円及び内金四一六五万円に対する平成二年四月二五日(本訴訴状送達日の翌日)から、内金一七一五万円に対する同年九月一九日(請求の趣旨の拡張申立書陳述日の翌日)から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(反訴)
一 原告は、被告株式会社田中(以下「被告会社」という。)に対し、金八〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一九日(本訴提起日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告は、被告田中武(以下「被告田中」とかう。)に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一九日(本訴提起日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
(本訴関係)
一 原告の権利
1 承継前原告共英土木工学株式会社は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していたところ、原告は、その後同社を吸収合併し(平成四年四月三日合併登記)、同社の権利義務一切を承継した(訴訟承継の点は本件記録上明らかであり、その余の点は争いがない。なお、以下において、特にことわらない限り、承継前の原告共英土木工学株式会社を示す場合も「原告」で統一表記する。)。
考案の名称 田畑用発芽助長保護マット
考案者 藤井厚孝
出願日 昭和五五年三月二二日(実願昭五五-三七九七一号)
出願公告日 昭和六三年八月三一日(実公昭六三-三二六二一号)
登録日 平成元年五月二六日
登録番号 第一七七一〇三三号
実用新案登録請求の範囲
「主体構成繊維を太さの略一定な例えばやしの繊維のような細い植物繊維を以てし、この構成繊維を、空隙率七五~九八%有する状態に絡ませて二~五m/m厚さのマット状に成すと共に、上記構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着したことを特徴とする田畑用発芽助長保護マット。」(添付の実公昭六三-三二六二一号実用新案公報〔以下「公報(1)」という。〕参照)
2 本件考案の構成要件
本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A 主体構成繊維を太さの略一定な例えばやしの繊維のような細い植物繊維を以てすること。
B この構成繊維を、空隙率七五~九八%有する状態に絡ませること。
C 二~五m/m厚さのマット状に成すこと。
D マット状に成した上記構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着すること。
E 田畑用発芽助長保護マットであること。
3 本件考案の作用効果
本件考案は、2の構成を有することにより、左記の作用効果を奏する(甲三)。
(一) 主体構成繊維が(公報(1)には「主体構成繊維を……」とあるが、「主体構成繊維が〔又は『は』〕……」の誤記と認める。裁判所注記)やしの繊維で、特定範囲の空隙率と厚みを有するため、田畑に蒔いた種子の保温、発芽助長に極めて効果があり、また雨風や野鳥の飼となりまた野鳥に散逸させられることもなく、しかも雨叩きを防止することができる(公報(1)4欄3行~7行)。
(二) やし繊維は太さは細く略一定で絡み易いので一定形態維持が容易であり、且マットの完成体積を自由に調整できるので、需要に適合した寸法・厚さ・密度(繊維の量)等のものを機械的に工場生産でき、しかもその品質管理・保管・敷設も極めて簡単である(公報(1)4欄10行~15行)。
二 被告らの行為
1 被告会社は、土木工事用資材としての、商品名商品番号「ニードフルマットN-3」というやしマット(以下「被告製品」という。)を業として製造販売しており、被告田中は被告会社の代表取締役である(争いがない)。
2 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙物件目録記載のとおりであり、次のとおり分説するのが相当である(乙一、検乙一の1~3、検甲一の1~3、弁論の全趣旨)。なお、被告らは、被告製品のやし繊維は太さが略一定でない旨主張するが、やし繊維が天然植物繊維であることを考慮すると、被告製品のやし繊維は太さが略一定と認めるのが相当である。
a 主体構成繊維を太さの略一定のやしの繊維を以てしている。
b この構成繊維を、空隙率約九三~九五%有する状態に絡ませている。
c 約三m/m厚さのマット状に成している。
d マット状に成した上記構成繊維の交叉部分を一般の土木工事用やしマットの製造に使用されている非水溶性接着剤で以て接着している。
e 土木工事用資材のやしマットである。
三 原告の請求の概要
被告製品が本件考案の技術的範囲に属すること、被告会社が被告製品を製造販売していること、被告田中は被告会社の代表者として被告製品の製造販売を指示していることを理由に、被告らに対し、被告製品の製造販売の停止及び被告会社が得た被告製品の販売利益額相当の損害の連帯賠償を請求。
四 主な争点
1 被告製品は、本件考案の技術的範囲に属するか。すなわち、土木工事用資材である被告製品も本件考案の技術的範囲に含まれるか。
2 被告会社は、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有するか。
3 本訴請求は権利濫用として許されないか。
4 被告らが損害賠償責任を負担する場合、被告らが賠償すべき原告に生じた損害の金額。
(反訴関係)
一 被告会社は被告製品を含む土木工事用資材のやしマット(商品名ニードフルマット)の製造販売業者であり、原告も土木工事用資材のやしマット(商品名サンドマット)の製造販売業者であって、両者は競業関係にある(争いがない)。
二 原告は、平成元年一一月から平成二年三月までの間に、被告製品の購入先であるリコー建設株式会社及び日本緑研株式会社に対し、被告製品が本件実用新案権を侵害する旨及び被告製品の使用販売の停止と侵害行為組成品の廃棄を求める旨を記載した左記1、2の書面、及びこれと略同旨の書面(以下これらの書面をまとめて「本件警告書」という。)を送付した(争いがない)。
1 平成二年二月二八日付原告代理人弁護士後藤次宏からリコー建設株式会社宛て内容証明郵便(乙二〇)
(記載内容の要旨)
「一 貴社が販売し、又は、土木工事の際使用されている法面保護材料植生ヤシマット(「田畑用発芽助長ヤシマットSB3」、「ニードフルマットN3」などと呼称されているもの)は、通知人会社が所有する実用新案権第一七七一〇三三号(本件実用新案権・裁判所注記)の技術的範囲に属するものです。
二 従って、貴社の右植生ヤシマット使用による工事の施工及び右マットの販売は通知人会社の実用新案権を侵害するものです。そこで、通知人会社は貴社に対し、実用新案法に基づき、右植生ヤシマット使用による工事の施工及び同マットの販売の停止、侵害行為を組成した物の廃棄を求めるものです。
三 また、通知人は本申入れに対する貴社の御処置並びに貴社が右マットを使用して施工したすべての工事、同工事の際に使用したマットの数量及び右マット販売数量及びその時期、金額を本書面到達から一〇日以内に通知して頂きたくその旨申し入れるものです。
もし期限までに誠意ある回答を頂けない場合は、法的措置を採る所存ですので、これを申し添えておきます。」
2 平成二年三月三日付原告代理人弁護士後藤次宏から日本緑研株式会社宛て内容証明郵便(乙一九)
(記載内容の要旨)
「一 当職は、平成元年一二月一五日付内容証明郵便にて、貴社の「ヤシマット」の使用及び販売行為が、通知人会社の「ヤシマット」に関する実用新案権第一七七一〇三三号(本件実用新案権・裁判所注記)を侵害するものであることを通知しました。
二 そこで、貴社より「ヤシマット(ニードフルマットN3)」は販売していない旨の文書による回答、及び右「ヤシマット」は、通知人会社が実用新案登録申請以前より使用されているものなる口頭の回答を受けました。
三 そこで当職は、通知人会社に対し、貴社からの回答を報告し、事実関係を正したところ、貴社の言い分は理由がないとの返事を得、再度警告書の発信を依頼されたものです。
四 そこで当職は、通知人会社の代理人として再度貴社に対し、「ヤシマット」を使用する土木工事及び「ヤシマット」の販売の停止を求あるものです。
つきましては、本書面到達後一週間以内に本件に対する貴社の処置の誠意ある回答を得たいと思っています。
もし、誠意ある回答を得られないときは、法的措置を採らざるを得なくなりますので通知いたします。
五 なお、通知人会社においては他業者に対する訴訟を決定し、且つ、その準備を完了している旨申し添えておきます。」
三 原告は、被告製品の製造販売が本件実用新案権を侵害するとして、平成二年四月一九日、被告製品の製造販売の停止等を求める本訴を当庁に提起した(争いがない)。
四 被告らの請求の概要
1 被告会社の請求
(一) 本件警告書には虚偽の事実の記載があり、原告の前記二の行為は、不正競争防止法一条一項六号に該当する、故意又は過失による不正競争行為(営業誹諦行為)であり、被告会社は、これにより営業上の利益を害されたとして、同法一条の二に基づき、仮にそうでないとしても、民法七〇九条・七一五条所定の不法行為に該当する(選択的主張)として、原告に対し、右行為により被告会社の被った営業上の信用段損による損害五〇〇万円の賠償を請求。
(二) 原告の前記三の行為は、民法七〇九条に該当する不当訴訟の提起であり、被告会社は、その応訴を余儀なくされ、かつ、原告が(一)項の損害賠償義務を任意に履行しないため、反訴の提起・追行を余儀なくされたとして、右応訴及び反訴の提起・追行に伴う弁護士費用損害三〇〇万円の賠償を請求(一括請求)。
2 被告田中の請求
原告の前記三の行為は、民法七〇九条に該当する不当訴訟の提起であり、被告田中はその応訴を余儀なくされたとして、弁護士費用損害一〇〇万円の賠償を請求。
五 主な争点
1(一) 原告が、不正競争防止法一条一項六号所定の「虚偽の事実の陳述、流布の行為」をしたか。
(1) 右陳述、流布した事実は虚偽であるか。
(2) 原告の故意又は過失の有無。
(3) 被告会社は営業上の利益を害されたか。
(二) 1項が肯定された場合、原告が賠償すべき被告会社に生じた営業上の信用毀損による損害及び反訴の提起・追行に伴う弁護士費用損害の金額
2(一) 本訴は不法行為を構成する不当な提訴か。
(二) (一)項が肯定された場合、原告が賠償すべき被告らに生じた応訴に伴う弁護士費用損害の金額
第三 争点に関する当事者の主張
(本訴関係)
一 争点1(土木工事用資材である被告製品も本件考案の技術的範囲に含まれるか)
【原告の主張】
本件考案の技術的範囲は、土木工事用資材である被告製品を含む。
すなわち、被告製品の構成は、前記(第二、二2)のとおり前記a・b・c・dの構成要素からなるやしマットであり、本件考案は、前記(第二、一2)のとおり、構成要件A・B・C・Dの構成要件から構成されているやしマットを含むマットであって、被告製品の構成要素a・b・c・dは、それぞれ、本件考案の構成要件A・B・C・Dを充足する。仮に被告ら主張のように本件考案が田畑用発芽助長の保護マットであるのに対し、被告製品は土木工事用資材のマットであって、両者がその使用目的及び使用対象を異にするとしても、被告製品は、本件考案の構成要件をすべて具備しており、その構成において同一のものであるから、被告製品をそのまま田畑用発芽助長保護マットとして使用に供しても、土木工事の法面緑化植生保護マットとしての使用に供しても、保護マットとして奏すべき作用効果に差異はない。被告製品は、構造上、本件考案の外に、土木工事用資材固有の機能を営むべき他の手段構成を付加したものではなく、本件考案のものに比し、その構造に由来する作用効果において異なるところはないから、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。
【被告らの主張】
1 本件考案の保護マットについて
本件考案の保護マットは、実用新案登録請求の範囲に明示されているとおり、「田畑用発芽助長保護マット」に限定されるべきであるから、本件考案の技術的範囲は、被告製品のような土木工事用資材を含まない。その詳細は、次のとおりである。
(一) 明細書の記載からみた本件考案
(1) 本件考案の願書添付明細書(乙二四の1、この項においては単に「明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲には、「……を特徴とする田畑用発芽助長保護マット」と明記されている。考案の技術的範囲は、願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならない(実用新案法二六条、特許法七〇条一項)のであるから、本件考案の技術的範囲が田畑用発芽助長保護マットに限定されることは明白である。
(2) 明細書において、本件考案の名称は、「田畑用発芽助長保護マット」と記載されている。考案の名称は、当該考案の技術的範囲を直接定めるものではないけれども、実用新案法施行規則様式第3(第2条関係)〔備考〕11によれば、「【考案の名称】は、当該考案の内容を簡明に表示するものでなければならない。」とされている。したがって、明細書に本件考案の名称が右のように記載されたということは、結局、本件考案の出願が、本件考案を田畑用発芽助長保護マットに特定限定する認識のもとにされたことを如実に物語っている。
(3) 明細書の考案の詳細な説明には、「よって、上述の保護マットは種蒔後、田畑の表面に敷設するもので、……」(公報(1)2欄21行~22行)との記載及び「従って、本考案に係る保護マットによる時は、主体構成繊維をやしの繊維で、特定範囲の空隙率と厚みを有するため、田畑に蒔いた種子の保温、発芽助長に極めて効果があり、…」(公報(1)4欄2行~5行)との記載があり、これらの記載からも、本件考案の保護マットの使用目的が、田畑に蒔いた種子の保温、発芽生育の助長の点にあることは明らかである。
(4) もっとも、公報(1)の産業上の利用分野を記載した箇所には、「本考案は種子蒔後に田畑等の地表面に敷設して蒔種の発芽助長に適する保護マットに関するものである。」(公報(1)1欄9行~11行)との記載、また、考案の解決すべき技術的課題を記載した箇所にも、「本考案は……主として田畑用として最適な保護マットを提供するものである。」(公報(1)1欄21行~24行)との記載があるけれども、それらは単に「田畑等」又は「主として田畑用」と抽象的に記載されているのみで、それ以上に、「田畑用」以外の具体的な使用目的が例示されているわけではなく、むしろ、考案の詳細な説明中のその余の前記(3)の記載内容に照らして考えると、本件考案の保護マットは、その使用目的を田畑用とするものに限定する認識ないし意図で一貫しているものとみるのが自然である。仮に百歩譲って右の「田畑等」又は「主として田畑用」などの各記載の趣旨をあえて忖度するとしても、それは、せいぜい育苗床、栽培床、苗代、家庭菜園など作物の栽培を目的とした、狭義の田畑の語義からは直ちに想起され得ない場所において使用される発芽助長保護マットも本件考案の技術的範囲に包含させる趣旨に理解するのが最大限可能な拡張解釈であって、その限度を超えて、被告製品のように、法面保護のための植生工事、すなわち山を切り開くなどして造成した道路の法面等に、草木を生育させることにより、草木の根を法面の土壌中に進入させ、これにより法面の土壌を安定化し、土壌表面の崩れや落石防止を企図した工事に際し、法面安定及び法面緑化のために用いる土木工事用資材である土木工事用植生マットまで、その技術的範囲に包含させる認識ないし意図であったとはとうてい認められない。
(5) まとめ
以上の明細書の記載によれば、本件考案の保護マットは、「田畑用発芽助長保護マット」に限定されるべきである。
(二) 公知技術からみた本件考案
本件考案は、以下のαないしγの各公知技術を勘案すると、それらから極めて容易に考案できたものであり、実用新案法三条二項に違反して登録されたものであって、特許庁に対する無効審判請求により同法三七条の規定によって無効とされるべきものである(被告会社は、平成三年一一月一五日、本件考案について、特許庁に対し右同旨の理由により実用新案登録無効審判請求をした。)。無効事由のある本件考案の技術的範囲の確定にあたっては、実用新案登録請求の範囲の記載を厳格に解釈し、みだりにこれを拡張解釈すべきではない。
(1) 公知技術
〈1〉 本件実用新案登録出願前である昭和四七年七月二八日付で公告された別添実公昭四七-二三六〇八号実用新案公報(乙二)掲載の土砂層被覆材の考案(以下「α考案」という。)
実用新案登録請求の範囲には、「各種動植物繊維又は合成繊維及至無機質繊維を原材1として用い、これに適宜屈曲性を附与せしめたものを適当な厚さの層状に展開せしめて締結剤を附着せしめ各交点を締結させて版状体2となし、該版状体2の一側面Aはその面にそった平行状の繊維構成に富ましめ、しかもその他側面Bはその面と交叉した垂直状又は交叉状に起立せしめた繊維構造に富ましめて成る土砂層被覆材」と記載されている。また、考案の詳細な説明には、解決すべき技術的課題として、「本考案は土砂層被覆材の考案に係り、土壌又は砂層を安定せしめてその崩壊を防ぎ、しかも芝生その他の植物類の発芽生育を良好ならしめ得る農業若くは林業又は土木工事上有効且つ新規な被覆材を提供しようとするものである。」(乙二1欄21行~25行)と記載されている。
〈2〉 本件実用新案登録出願前である昭和四七年五月二六日付で公告された別添特公昭四七-一八一四一号特許公報(乙三)掲載の播種方法の特許発明(以下「β発明」という。)
特許請求の範囲には、「1 太デニールの繊維がからみ合い、繊維の接点において合成樹脂接着材で接着してなる空隙の大きい繊維積層シートを地表に敷設レたのち、この上から種子と土および肥料などとを吹きつけて、種子、土などを繊維積層シートの空隙内に吸着させることを特徴とする播種方法。」と記載されている。また、発明の詳細な説明には、解決すべき技術的課題として、
「本発明は、太デニールの繊維がからみ合い、繊維の接点において合成樹脂接着材で接着してなる空隙の大きい繊維積層体を地表に敷設したのち、この上から種子と土および肥料などと混合したものを吹きつけて種子、土などを繊維積層シートの空隙内に吸着させることを特徴とする播種方法に関するものである。」(乙三1欄19行~25行)と記載されている。
〈3〉 本件実用新案登録出願前である昭和五一年一〇月七日付で公開された別添特開昭五一-一一四二二七号公開特許公報(乙四)掲載の栽培用被覆資材の特許発明(以下「γ発明」という。)
特許請求の範囲には、「五~五〇重量%のアクリル系繊維と五〇~九五重量%のセルロース系繊維とからなるシート材料にして、このシートを構成する単繊維の長さは二〇mm以下であり、単繊維は無秩序に積層され相互に絡み合ってシートの形態を保持しており、このシートは培地に被覆する前の状態で五%以上の通水度と〇・五km以上の湿潤裂断長を有することを特徴とする栽培用被覆資材。」と記載されている。また、発明の詳細な説明には、解決すべき技術的課題として、「本発明は被覆資材、特に一年生農作物栽培の用に供する被覆資材に関するもので、被覆栽培時においては雑草の生育を阻止すると共に被覆資材を通して土壌への雨水、散水の浸透を可能ならしめて農作物の生育を促進し、かつ被覆栽培終了後は被覆資材を土壌中に還元せしめて廃棄物処理を容易ならしめることができる改良された被覆資材を提供しようとするものである。」(乙四1欄15行~2欄2行)と記載されている。
(2) 公知技術と本件考案の対比
以上の公知技術と本件考案を対比すると、本件考案の構成要件AないしEの技術的思想は、右公知技術においてすべて開示されている。すなわち、
〈1〉 本件考案の構成要件Aの主体構成繊維を例えばやしの繊維のような細い植物繊維を以てすることは、α考案について、乙第二号証の実用新案登録請求の範囲に、「各種動植物繊維……を原材1として用い」としてその技術的思想を開示する記載があり、主体構成繊維の太さを「略一定」にすることについても、例えば、β発明について、乙第三号証の発明の詳細な説明の実施例に関する記載中に、「ポリビニールアルコール繊維五〇〇d(〇・二二mmφ、長さ一一〇mm)がからみ合い、……の繊維積層体を法面に敷設したのち、……」(乙三4欄21行~24行)と記載されているように、この種の技術分野においては周知の技術的常識というべきである。
〈2〉 本件考案の構成要件Bの構成繊維を、空隙率七五~九八%有する状態に絡ませることについては、β発明の積層体が略同一の構成を有している。すなわち、β発明においては、構成繊維として前記したとおり〇.二二mmφのポリビニールアルコール繊維が示されており、その一m当たりの体積は、次の計算式により〇・〇三八〇cm3と求められる。
π×(0.022/2)×(0.022/2)×100=0.0380
そして、右構成繊維の太さは五〇〇d(デニール。絹および化繊のフィラメント糸の繊維の太さを表す単位。)であるから、一d=五〇mg/四五〇mと定義され、五〇〇dの繊維一m当たりの重量は、次の計算式により〇・〇五五六gと求められる。
500×0.05/450=0.0556
したがって、右構成繊維の比重は、次の計算式により一・四六となる。さらに、右構成繊維からなる積層体の見掛け比重は、〇・〇一~〇・〇五が望ましいとされており(乙三2欄35行~36行)、この見掛け比重は、繊維塊の比重量(ρF)と同義であり(乙五の2・二一頁)、見掛け比重が〇・〇一と〇・〇五のときの積層体の空隙率は、それぞれ次の計算式により九九・四〇%と九六・六五%と求められ(乙五の2・二二頁の定義式に代入)、この各数値はいずれも本件考案の構成要件Bの主体構成繊維の空隙率七五~九八%の範囲内である。
(1.46-0.01)÷(1.46-0.0012)=99.40
(1.46-0.05)÷(1.46-0.0012)=96.65
〈3〉本件考案の構成要件Cの主体構成繊維を二~五m/m厚さのマット状に成すことについては、既にβ発明について、乙第三号証の発明の詳細な説明中に、「そして、この積層体の厚さは、その内部に種子と土砂を十分保持しているように、その厚さを三mm以上好ましくは一〇mm以下とすることが望ましい。」(乙三3欄17行~20行)と、これを示唆するに十分な記載がある。
〈4〉 本件考案の構成要件Dの構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着剤で以て接着することについては、α発明について、乙第二号証の実用新案登録請求の範囲に、「……締結剤を附着せしめ各交点を締結させて……」と同趣旨の記載があり、また、γ発明について、乙第四号証の発明の詳細な説明中にも、「本発明の被覆資材は前記したアクリル系繊維およびセルロース系繊維のほか第三の成分を〇~四五%含有することができる。第三の成分としては……メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、天然または合成ゴム系接着剤等の接着剤類……がある。」(乙二8欄6行~18行)との記載がある。そして、メラミン系樹脂接着剤は、硬化性が高く、耐水性・耐熱性に富むことが本件考案の登録出願当時当業者の間に広く知られており(乙六の1~4)、また、アクリル系樹脂接着剤は、耐水性・耐油性・耐久性に富むことが広く知られいた(乙六の1~4)のであるから、当時発芽助長用の不織布マットの技術分野において、主体構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着剤で以て接着することは、周知の技術的事項であったということができる。
〈5〉 本件考案の構成要件Eの「発芽助長保護マット」であることは、乙第二号証ないし第四号証には、その使用目的を「田畑用」とする明示的記載はないけれども、それらに開示されたマットの使用目的が発芽助長保護の点にあることは上叙の事実から明らかであるし、本件考案において、その使用目的を田畑用に限定したとしても、そのこと自体に格別の考案力が必要ないことも明らかである。
(3) まとめ
以上によれば、本件考案は、その出願当時の右公知技術に開示された技術的事項の単なる寄せ集めにすぎず、その作用効果も、それら公知技術の作用効果の総和を超えるものではない。
(三) 出願経過からみた本件考案
(1) 出願経過
特許庁審査官は、昭和五八年三月二二日付で、本件実用新案登録出願について、「……該マットの厚さ及び空隙率を適宜選定することは保護マットの性質からして当然の設計事項と認められ、該保護マットの厚さ及び空隙率を本願考案のように限定することは当業者が極めて容易になし得たものと認める。しかも保護マットの厚さ及び空隙率を本願考案のように限定した点に格別な作用効果があるとも認められない。……」などの理由で拒絶査定をし(乙二四の5)、右査定書謄本は、その頃、原告に送達された。これに対し、原告は、特許庁に対し、同年五月二四日付で審判請求(乙二四の6)をするとともに、同年六月二二日付で審判請求理由補充書(乙二四の7)及び手続補正書(乙二四の8)を提出し、マットの厚さ及び空隙率を変化させて実際に発芽率を測定した実験値データ等を提示した。その結果、特許庁審判官は、昭和六三年五月一六日付で、本件実用新案登録出願について、出願公告の決定をするとともに、平成元年二月一五日付で右拒絶査定を取り消し、本件考案は実用新案登録をすべきものとする旨の審決をし(乙二四の9)、本件考案はその後登録査定された。右審判請求理由補充書のなかには、「……また、本願考案に係る田畑用発芽助長保護マットの年間使用実績が毎年相当量に達成している(「達している」の誤記と認める。裁判所注記)ことからしても、本願考案が極めて有効なものであることが理解できるものと考えます。……」((4)頁末行~(5)頁3行)との記載がある。
(2) まとめ
以上の本件考案の登録出願経過から考えると、原告が、本件実用新案登録出願の審査段階において、本件考案を田畑用発芽助長保護マットに意識的に限定したことは明らかであり、特許庁としても、その前提で登録査定したものとみるべきである。
2 本件考案の主体構成繊維の太さについて
前記したとおり、主体構成繊維の太さを「略一定」にすることは、発芽助長用の不織布マットの技術分野において周知の技術的事項である。そして、本件考案の構成要件がすべて出願前公知の技術の単なる寄せ集めにすぎないことについても、前記したとおりである。してみると、本件考案の主体構成繊維の太さは、当初明細書において出願人が認識していた範囲の「略一定」なものに限定されるべきである。
3 本件考案の主体構成繊維の交叉部分の接着に使用されている接着剤の種類
前記したとおり、本件実用新案登録出願当時、発芽助長用の不織布マットの技術分野において、主体構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着剤で以て接着することは周知の技術常識であった。そして、本件考案の構成要件がすべて出願前公知の技術の単なる寄せ集めにすぎないことも、前記したとおりである。してみると、本件考案の主体構成繊維の交叉部分の接着に使用されている接着剤は、当初明細書において出願人が認識していた範囲の「耐蝕性接着剤」に限定されるべきである。
4 被告製品と本件考案の対比以上の見地から被告製品と本件考案を対比すると、〈イ〉本件考案は「田畑用発芽助長保護マット」である(本件考案の構成要件E)のに対し、被告製品のそれは「土木工事用資材のやしマット」である(被告製品の構成e)点、〈ロ〉 本件考案の主体構成繊維の太さは「略一定」である(本件考案の構成要件A)のに対し、被告製品のそれは異なっている(被告製品の構成a)点、〈ハ〉 本件考案の主体構成繊維の交叉部分の接着に使用されている接着剤は「耐蝕性接着剤」である(本件考案の構成要件D)のに対し、被告製品のそれは異なっている(被告製品の構成d)点で相違するから、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属さない。
【原告の反論】
1 推考容易性の主張について
被告らは、当業者が、α考案、β発明及びγ発明から本件考案を極めて容易に推考できた旨主張するが、右主張は、次の点において誤っている。
(一) α考案について
α券案には、植物繊維を主体構成繊維として用いる土砂層被覆材に関する技術的思想それ自体は開示されているが、その明細書において、右主体構成繊維の太さ、寸法、厚さ及び空隙率等、当業者がα考案の内容を正確に理解し、かつ、これを容易に実施することができるために必須の技術的事項については、何ら具体的な開示若しくは示唆がない。したがって、当業者がα考案から本件考案を極めて容易に推考できたとはいえない。
(二) β発明
β発明における積層体は、〇・一ミリメートル~〇・五ミリメートルの寸法径の主体構成繊維で構成されることをその前提としている。しかし、合成繊維で右範囲の寸法径の主体構成繊維を製造することは技術的には全く不可能とはいえないにしても、ヤシ繊維等の天然植物繊維でこれを製造する場合、マットの製造工程で繊維が折れてしまい、自動織機にかけると細い繊維部分がばらばらになってしまうため、工業上は製造が極めて困難である。のみならず、β発明における右範囲の寸法径の積層体は、その主体構成繊維が合成繊維で構成されることにより、吹付方法による蒔種の際にも、その強度と保形性を維持できるのに対し、本件考案のように主体構成繊維としてヤシ繊維等の天然植物繊維を用いた場合、吹付方法によって蒔種すると、吹付の衝撃で繊維が扁平となり、あるいは破損してしまい、種子や土壌を積層体の内部に吸着することができず、その強度と保形性を維持することが不可能である。以上の点に照らせば、β発明が、そのなかに本件考案のようにヤシ繊維等の天然植物繊維を主体構成繊維として用いる技術思想を包含していないことは明らかである。したがって、当業者がβ発明から本件考案を極めて容易に推考できたとはいえない。
(三) γ発明
γ発明は、主体構成繊維の材質自体をその技術対象とする発明であり、そのなかには、本件考案におけるような、主体構成繊維の「交点を接着する」という技術的思想は何ら包含されていない。このことは、その明細書の発明の詳細な説明において、「本発明者等はこのような現状に鑑み、従来の被覆資材の欠点を改良するために鋭意研究を行なったところ、被覆資材を構成する原料としてアクリル系繊維とセルロース系繊維の混合物を使用し、繊維同志を絡み合わせて製造した不織シートは驚くべきことに、通水性が改良され、しかも被覆栽培終了後の廃棄物処理も非常に容易であることを見い出し本発明をなすに至った。すなわち、本発明は五~五〇重量%(重量基準以下同じ)のアクリル系繊維と五〇~九五重量%のセルロース系繊維とからなるシート材料にして、このシートを構成する単繊維の長さは二〇mm以下であり、……」(乙四2欄19行~3欄11行)と記載されていることからも明らかである。したがって、当業者がγ発明から本件考案を極めて容易に推考できたとはいえない。
2 被告製品と本件考案の相違点に関する被告らの主張について
(一) 「田畑用発芽助長保護マット」に限定の主張について
本件出願願書添付明細書の詳細な説明には、「本考案は種子蒔後に田畑等の地表面に敷設して蒔種の発芽助長に適する保護マットに関するものである。」(公報(1)1欄9行~11行)と記載されているだけで、本件考案の産業上の利用分野については、これを格別限定する趣旨の記載は一切ない。したがって、このような明細書の記載内容に照らすと、右の「田畑等の地表面」とは、文字どおり種子が蒔かれて発芽生育する場所、すなわち種子を蒔くことが物理的に可能な地表面を意味するものであり、右地表面は現実にそこに蒔種されることにより「田畑等の地表面」となるものと理解すべきである。そうすると、本件考案の保護マットは、結局、右の意味における「田畑等の地表面」に敷設されるものでありさえすればよいのであって、それは、現実に土木工事用、灌漑用、林業用、農業用等、如何なる用途に用いられようとも、蒔種された種子の発芽生育の助長保護という全く同一の作用効果を奏するのである。したがって、本件考案の保護マットを、被告ら主張のように、みだりに田畑用に狭く限定解釈すべき必然性は全くなく、被告製品はその使用目的が土木工事用の点にあるとしても、それが本件考案の技術的範囲に属することは明らかである。
(二) 主体構成繊維の太さの相違の主張について
もともと、本件考案の主体構成繊維であるヤシ繊維は天然植物繊維であるから、各繊維の太さは一定していない。そうであるからこそ、本件実用新案登録請求の範囲においても、主体構成繊維の太さについて、「太さの略一定な」と概括的に表現しているのである。したがって、主体構成繊維の太さが異なっているから、被告製品が本件考案の技術的範囲に属さないとする被告ら主張は失当である。
(三) 主体構成繊維の交叉部分の接着剤の種類の相違の主張について
被告会社の製品パンフレット(乙一)には、被告製品を含むニードフルマットの特性について、「……ニードリング加工により強度と空隙をあたえた後、耐水・耐腐蝕加工を施したマットです。……」(二頁左欄5行~8行)との記載がある。この記載に照らすと、被告製品においても、本件考案のそれと同様に構成繊維の交叉部分の接着剤として耐蝕性接着剤が使用されていることは明らかである。したがって、主体構成繊維の交叉部分の接着剤の種類が異なっているから被告製品が本件考案の技術的範囲に属さないとする被告ら主張は失当である。
二 争点2(被告会社は、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有するか)
【被告らの主張】
仮に、被告製品が、本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告会社は、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有する。すなわち、被告会社は、本件考案の内容を知らないで、被告製品を考案し、昭和五四年六月頃以降、本件考案の出願当時においても、被告製品を製造販売していた。そして、仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属するというのであれば、本件考案と被告製品は同一の物件ということになるから、被告会社は、実用新案法二六条、特許法七九条に基づき、被告製品の製造販売について、先使用に基づく通常実施権をもって原告に対抗することができる。
この点について若干敷術すると、被告製品と同一規格の製品は、厚さの点を別とすれば、遅くとも昭和四四年ないし四五年頃には既に土木工事用資材業界で出回っており、現に、被告会社も、昭和四七年頃から厚さが一〇ミリメートルである外は被告製品と全く同一規格のやしマットの製造販売を開始し、これを相手先ブランドで販売する契約(いわゆるOEM契約)のもとに原告等に供給していたが、その後本件考案の内容を知らないで厚さ三ミリメートルの被告製品を自社で研究開発し、昭和五四年六月頃以降その製造を開始し、これを自社ブランドで販売し現在に至っている。その実例を、記録が未だ被告会社や供給先に残存していた最も古いものによって示せば、被告会社が、建設工学株式会社に対し、被告製品を、〈1〉 昭和五四年一二月一九日に四〇〇m2、〈2〉 昭和五五年一月二四日に五六〇m2、〈3〉 昭和五五年二月四日に八〇m2、〈4〉昭和五五年二月二三日に八〇m2、〈5〉昭和五五年三月二六日に七二〇m2、それぞれ供給した例を挙げることができる。
なお、この点に関連して、原告は、被告会社に対し被告製品の製造技術を指導をしたかのように主張するけれども、被告会社が昭和五四年六月頃新製品の厚さ三ミリメートルの被告製品を研究開発した際は勿論、それ以前の如何なる時期においても、被告会社は、原告から何らの技術指導も受けてはいない(因みに、原告が、被告会社において当初製造販売していた厚さ一〇ミリ規格の製品に関する特許である旨主張する、特許第五八九二五〇号は昭和五三年六月一三日付で登録無効の審決がされていることを付言しておく。)。
【原告の主張】
被告らの主張はいずれも争う。原告は、もと共英製鋼株式会社の土木部門であったが、昭和五三年に同社から独立して設立された会社である。共英製鋼株式会社は、「やしの実の繊維ホップの葉脈、合成樹脂繊維の耐蝕性繊維を粗なる空隙を存した状態に絡らませ、この状態のままで合成樹脂、瀝青質物等の耐蝕性のブリッジ材料を以て纏絡して板状に構成し、上記空隙内に砂れきを充填させて、繊維と砂れきとが一体となって岩盤状となるよう空隙の大きさを定めたることを特徴とする土木工事用マット」及び「やしの実、ホップの葉脈、合成樹脂繊維等の耐蝕性繊維を粗なる空隙を存した状態に絡らませ、この状態のままで合成樹脂、瀝青質物等の耐蝕性ブリッジ材料を以て纏絡した板状物を構成し、上記板状物の空隙内に根を張る革の種子類と共に土砂を充填してその敷設によって革の成育につれ、革根と板状物との共働により土砂の崩壊を抑えるようなしたることを特徴とする土木工事用マット」について特許第五八九二五〇号(甲五の1)を有し、右特許権に基づいて、商品名サンドマットなる洗掘防止・吸出防止・軟弱地盤安定のための土木工事用マット(本件考案にかかるSB-3を除く。)を製造販売していた。被告会社は、元来同社の下請として同社から注文を受けて右マットを製造していたのである。原告は、本件実用新案登録出願後、本件考案にかかる田畑用発芽助長保護マット(SB-3)を自ら製造販売していたが、需要に供給が追い付かず、当時被告会社からも下請として右マットを製造をさせてほしい旨の申出があったので、右申出を了解し、製造方法の技術指導をしつつ、被告会社に被告製品を下請製造させていた。しかし、その後昭和六〇年に至り右特許権が期間満了により消滅し、被告会社は、現在まで被告製品を自社製品として製造販売しているのである。したがって、被告会社が本件実用新案権について先使用による通常実施権を取得する余地はない。
三 争点3(本訴請求は権利濫用として許されないか)
【被告らの主張】
原告は、本件考案の実用新案登録出願後も、被告会社による被告製品の製造販売の事実を知りながら、これに対し何ら異議を述べなかったばかりか、自らも昭和五九年一一月まで継続して被告会社から被告製品を購入するなどして、積極的にこれを許容していたのである。ところが、一旦本件考案について登録査定がされ、本件実用新案権が権利化されるや、原告は、何の前触れもなく突如として被告会社に対し本件実用新案権に基づき被告製品の製造販売の停止を迫るに至った。かかる原告の態度は、誠に身勝手で不誠実きわまりないものである。したがって、仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属し、かつ、被告会社が本件実用新案権について先使用による通常実施権を有しないとしても、本訴請求は権利濫用として許されない。
【原告の主張】
被告らの主張は争う。本件考案の考案者で原告の実質的な経営責任者でもある藤井厚孝(以下「藤井」という。)は、一般に実用新案は出願公告されるまでは、その侵害に対して何ら法的措置を講ずることはできないものと思っていた。そのため、藤井は、本件考案の出願公告前には、被告会社に対して格別具体的な法的手続をとらなかっただけの話である。もっとも、藤井は、本件考案の出願公告後、被告会社の代表者である被告田中に対し、被告製品の製造を停止するよう口頭で申し入れをしており、被告ら主張のように何の前触れもなく突然本訴を提起したわけではない。
四 争点4(原告の損害金額)
【原告の主張】
被告製品の一平方メートル当たりの販売単価は四一〇円であるが、このうち被告会社の得る利益額は二四五円である。したがって、被告らの故意又は過失による本件実用新案権侵害行為によって原告の被った損害の金額は、次のとおり総計五八八〇万円となる。
1 昭和六三年九月から平成二年一月までの間の損害四一六五万円
被告会社は、この間少なくとも一か月当たり一万平方メートルの被告製品を製造販売した。したがって、この間の被告会社の利益額は、左記計算式により合計四一六五万円となり、この金額が原告が受けた損害額と推定される(実用新案法二九条一項)。
二四五円×一〇〇〇〇(平方メートル)×一七(か月)=四一六五万円
2 平成二年二月から同年八月までの間の損害一七一五万円
被告会社は、この間少なくとも一か月当たり一万平方メートルの被告製品を製造販売した。したがって、この間の被告会社の利益額は、左記計算式により合計一七一五万円となり、この金額が原告が受けた損害額と推定される(実用新案法二九条一項)。
二四五円×一〇〇〇〇(平方メートル)×七(か月)=一七一五万円
(反訴関係)
一 争点1(一)(原告が、不正競争防止法一条一項六号所定の「虚偽の事実の陳述、流布の行為」をしたか)
【被告らの主張】
被告製品は、前記のとおり、本件考案の構成要件A・D・Eを具備せず、その技術的範囲には属さない。また、仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告会社は、前記のとおり、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有するから、被告製品を適法に製造販売することができる。したがって、いずれにしても原告が被告製品の販売先であるリコー建設株式会社及び日本緑研株式会社に対し送付した本件警告書により陳述・流布した、被告製品が本件実用新案権を侵害する旨の事実は虚偽であり、被告会社の営業上の信用を害する事実であることは多言を要しない。
【原告の主張】
被告らの主張は争う。前記のとおり、被告製品は本件考案の技術的範囲に属し、かつ、被告会社は、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有しないから、原告が本件警告書の送付により陳述・流布した事実は真実である。
二 争点1(二)(原告が賠償すべき虚偽の事実の陳述、流布の行為によって被告会社に生じた損害の金額)
争点2(二)(原告が賠償すべき、被告らに生じた応訴に伴う弁護士費用損害の金額)
【被告らの主張】
原告の虚偽の事実の陳述、流布の行為によって、被告会社には次の損害を生じた。
1 営業上の信用毀損損害 五〇〇万円
被告会社は、本件警告書の送付により、長年にわたって業界で築き上げてきた営業上の信用を著しく毀損され、それに伴う損害は、これを金銭的に評価すれば五〇〇万円を下らない。
2 弁護士費用損害 三〇〇万円
被告会社は、後記のとおり不当極まりない本訴に対する応訴を余儀なくされただけでなく、原告が本件警告書送付による営業上の信用毀損損害の賠償義務を任意に履行しないため反訴の提起を余儀なくされ、そのためこれを被告ら訴訟代理人に委任しその弁護士費用を負担せざるを得なかった。右弁護士費用負担の損害額は、後記本訴応訴に伴うものと併せ、合計三〇〇万円を下らない。
【原告の主張】
被告らの主張はいずれも争う。本件警告書の送付先のリコー建設株式会社及び日本緑研株式会社は、平成二年三月一九日頃到達の原告宛て各内容証明郵便(甲六、七)で、本件警告書に対して詳細な反論を加えており、本件警告書の送付によって被告会社の営業上の信用が毀損されたことはない。
三 争点2(一)(本訴は不法行為を構成する不当な提訴か)
【被告らの主張】
原告は、長年にわたり自らも被告会社から被告製品を仕入れるなどして、被告会社による被告製品の製造販売の事実を知悉容認していたにもかかわらず、平成元年五月二六日になって、特許庁において本件考案につき登録の査定がされたことを知るや、一転して何の前触れもなしに同年一一月二一日頃到達の内容証明郵便で唐突に被告会社に対して、被告製品が本件考案の技術的範囲に属する旨を記載した警告書(乙一七)を送付し、さらには、これに対する同年一二月四日頃到達の内容証明郵便による被告会社から反論の回答書(乙一八)を受領しながら、その内容についての十分な吟味も怠ったまま、翌平成二年四月一九日、皆目理由を発見し難い本訴の提起に踏切ったものであって、かかる原告の態度は著しく信義にもとるのであるから、本訴の提起は不法行為を構成する。
四 争点2(二)(原告が賠償すべき被告田中に生じた損害の金額)
【被告らの主張】
原告は、本訴が不当訴訟であることを知り又は過失によりこれを知らないでこれを提起した結果、被告田中はこれに対する応訴を余儀なくされ、その追行を被告ら訴訟代理人に委任しその弁護士費用を負担せざるを得なかった。右弁護士費用負担の損害額は一〇〇万円を下らない。
第四 争点に対する判断
一 本訴請求について
【争点1(被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか。土木工事用資材のやしマットも本件考案の技術的範囲に含まれるか。)】
1 本件考案と被告製品の対比
本件考案の構成要件と被告製品の構成を対比すると、本件考案が「田畑用発芽助長保護マット」の考案であり、「田畑」とは「田とはたけ」をいうことはいうまでもない(広辞苑第四版一六〇八頁)から、本件考案の対象物の使用目的は農業用にあることは明らかである。これに対し、被告会社のニードフルマットの製品パンフレット(乙一)二頁には、まず、被告製品を含むニードフルマットの特徴に関する説明として、「耐水性、耐候性、耐腐蝕性にとくにすぐれた天然繊維(主に椰子殻繊維)や合成繊維、あるいはこれらの繊維を組み合わせて、砂礫を包含しやすいよう、疎から密に特殊な方法で配列。そしてさらに、ニードリング加工により強度と空隙をあたえた後、耐水・耐腐蝕加工を施したマットです。この〈ニードフルマット〉は透水性にすぐれ、土砂の洗掘防止、吸出防止などにいまや欠くことのできない画期的な土木工事用資材として活躍しています。」との記載があり、また、その使用目的について、「あらゆる土木建設工事で活躍ニードフルマット」の表題の下に、〈1〉 河川工事…護岸、堤防、堤、砂防、〈2〉 砂防工事…海岸、山腹、法面保護、〈3〉 港湾工事…防潮堤、砂留根固、〈4〉埋立工事…防潮堤、排水、〈5〉 道路工事…排水、地盤安定、〈6〉 道路造成工事…法面・盛土保護排水と地盤安定、〈7〉 法面保護・植生工事…法面安定、法面緑化、〈8〉 トンネル・地下鉄工事…トンネル排水、盛土安定、〈9〉 その他…養漁用フィルター材、消音用材、一般用材を列挙しており、施工例を示す掲載写真(同3頁~13頁)もすべて右列挙にかかる各土木工事に関するものばかりであることが認められ、以上の事実によれば、被告製品を含むニードフルマットの使用目的が土木工事用にあることは明らかである。したがって、本件考案と被告製品とでは、その各対象物の使用目的が農業用か土木工事用かの点で明確に相違し、そのことは原告も自認するところである。
〔なお、被告らは、以上の相違点の他にも、Ⅰ 本件考案の主体構成繊維の太さは「略一定」であるのに対し、被告製品のそれは異なっている点及びⅡ 本件考案の主体構成繊維の交叉部分の接着に使用されている接着剤は「耐蝕性接着剤」であるのに対し、被告製品のそれは「非耐蝕性接着剤」である点で本件考案と被告製品が相違する旨主張するが、Ⅰの点については、被告製品の主体構成繊維として使用されているやし繊維は太さが略一定と認めるのが相当であり(乙一、検乙一の1~3、検甲一の1~3)、Ⅱの点については、被告らも、被告製品において主体構成繊維の交叉部分を一般の土木工事用やしマットの製造に使用されている非水溶性接着剤で以て接着していることを認めているところ、右被告製品パンフレット二頁には「耐水・耐腐蝕加工を施したマットです。」と明記していることに鑑みると、被告製品の構成繊維の交叉部分の接着に使用されている接着剤は耐蝕性接着剤であると認めるのが相当であるから、被告製品は、本件考案の構成要件Eに関する前記相違点を除き、その余の構成AないしDを具備していると認められる。〕
ところで、発明・考案の対象物をいかなる目的に使用するかということは、本来用途発明等特別の場合を除き、一般的には侵害の成否には関係のない事柄であり、本件においても、右のような一般論からすれば、本件考案の対象物は田畑用発芽助長保護マットであり、被告製品の構造が本件考案の構造と同一であり、田畑用発芽助長保護マットに転用可能であるとすれば、それは客観的には本件考案の作用効果を奏し得るから、本件考案の技術的範囲に属するということになるはずである。
しかしながら、本件においてはそのような結論は直ちには採用し難い。何故ならば、以下に詳論するとおり、〈1〉 本件考案の出願当時の公知技術、〈2〉 明細書の記載内容、〈3〉 本件実用新案登録出願から登録査定に至る経過、〈4〉 原告の出願にかかる先願発明の技術的範囲との関係、〈5〉 本件実用新案登録出願前に被告製品及び同種製品が既に開発されていた事実に照らして考えると、本件考案は、その対象物を田畑用発芽助長保護マットに限定したものであり、本件考案の技術的範囲は土木工事用資材のやしマットには及ばないと解さざるを得ないからである。
2 本件考案の出願当時の公知技術からみた本件考案の内容
(一) まず、本件考案の出願当時における不織布を用いた保護マットの技術水準についてみるに、乙第二号証ないし第四号証によると、本件考案の出願当時、右マットの技術分野において、少くとも以下の公知技術が存在したことが認められる。
(1) α考案
本件実用新案登録出願前である昭和四七年七月二八日付で公告された別添実公昭四七-二三六〇八号実用新案公報(乙二)掲載の実用新案登録請求の範囲を「各種動植物繊維又は合成繊維及至無機質繊維を原材1として用い、これに適宜屈曲性を附与せしめたものを適当な厚さの層状に展開せしめて締結剤を附着せしめ各交点を締結させて版状体2となし、該版状体2の一側面Aはその面にそった平行状の繊維構成に富ましめ、しかもその他側面Bはその面と交叉した垂直状又は交叉状に起立せしめた繊維構造に富ましめて成る土砂層被覆材」とする考案。
(2) β発明
本件実用新案登録出願前である昭和四七年五月二六日付で公告された別添特公昭四七-一八一四一号特許公報(乙三)掲載の特許請求の範囲を「1 太デニールの繊維がからみ合い、繊維の接点において合成樹脂接着材で接着してなる空隙の大きい繊維積層シートを地表に敷設したのち、この上から種子と土および肥料などとを吹きつけて、種子、土などを繊維積層シートの空隙内に吸着させることを特徴とする播種方法。」とする発明。
(3) γ発明
本件実用新案登録出願前である昭和五一年一〇月七日付で公開された別添特開昭五一-一一四二二七号公開特許公報(乙四)掲載の特許請求の範囲を「五~五〇重量%のアクリル系繊維と五〇~九五重量%のセルロース系繊維とからなるシート材料にして、このシートを構成する単繊維の長さは二〇mm以下であり、単繊維は無秩序に積層され相互に絡み合ってシートの形態を保持しており、このシートは培地に被覆する前の状態で五%以上の通水度と〇・五km以上の湿潤裂断長を有することを特徴とする栽培用被覆資材。」とする発明。
(二) 以上の公知技術と本件考案の各構成要件を対比検討すると、次のとおりである。
(1) 構成要件A
本件考案の構成要件Aのうち、主体構成繊維を例えばやしの繊維のような細い植物繊維を以てする、その技術的思想それ自体は、α考案において、その実用新案登録請求の範囲に「各種動植物繊維……を原材1として用い、」と記載されているところに既に開示されているものとみられる。また、主体構成繊維の太さを「略一定」にすることについても、例えば、β発明について、乙第三号証の発明の詳細な説明の実施例の説明のなかに、「ポリビニールアルコール繊維五〇〇d(〇・二二mmφ、長さ一一〇mm)がからみ合い、……の積層体を法面に敷設したのち、……」(乙三4欄21行~24行)と記載されていることからも、この種の技術分野においては周知の技術常識であったことが優に推認される。
(2) 構成要件B
本件考案の構成要件Bの主体構成繊維を、空隙率七五~九八%有する状態に絡ませることについては、β発明において、被告らの計算(第三(本訴関係)一【被告らの主張】(二)(2)〈2〉)のとおり、空隙率が右範囲内である九六・六五%~九九・四〇%の積層体が開示されており、空隙率を如何なる範囲に設定するかは、当業者技術者が適宜選択できる設計事項と認められるから、同構成要件も周知の技術常識であったと認められる。
〈3〉 構成要件C
本件考案の構成要件Cの主体構成繊維を二~五m/m厚さのマット状に成すことについては、既にβ発明について、乙第三号証の発明の詳細な説明のなかに、「そして、この積層体の厚さは、その内部に種子と土砂を十分保持しているように、その厚さを三mm以上好ましくは一〇mm以下とすることが望ましい。」(乙三3欄17行~20行)と、その技術的思想を示唆するに十分な記載がある。
〈4〉 構成要件D
本件考案の構成要件Dの主体構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着することについては、α発明について、その実用新案登録請求の範囲には、「……締結剤を附着せしめ各交点を締結させて……」と記載され、また、γ発明について、明細書の発明の詳細な説明中には、「本発明の被覆資材は前記したアクリル系繊維およびセルロース系繊維のほか第三の成分を〇~四五%含有することができる。第三の成分としては……メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、天然または合成ゴム系接着剤等の接着剤類……がある。」(乙二8欄6行~18行)との記載があるとともに、メラミン系樹脂接着剤は、硬化性が高く、耐水性・耐熱性に富むこと、また、アクリル系樹脂接着剤は、耐水性・耐油性.耐久性に富むことが本件考案の出願当時当業者の間において広く知られていたのであるから(乙六の1~4)、当時、不織布保護マットの技術分野において、主体構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着剤で以て接着することは、周知の技術的常識であったということができる。
右のとおり、先行の公知技術に本件考案と同一の田畑用発芽助長保護マットはなかったとはいうものの、本件考案の構成要件AないしDそれぞれは、これを抽象的類型的に取り上げれば、α考案、β発明及びγ発明によってすべて開示されていたことが明らかである。
3 明細書の記載内容からみた本件考案の内容
本件実用新案登録出願願書添付明細書は、拒絶理由通知及び拒絶査定を受けた都度いずれも補正(合計二回)されたけれども、補正の前後を通じて一貫して、本件考案の願書及び添付明細書の「考案の名称」欄にはいずれも「田畑用発芽助長保護マット」と、また明細書実用新案登録請求の範囲には、「田畑用発芽助長保護マット」の考案といずれも明記されており、「考案の詳細な説明」及び「図面の簡単な説明」においても、本件考案は田畑用発芽助長保護マットに関するものとして説明されており、これら願書及び明細書において「土木工事用資材」ないしそれを想起させる用語は全く使用されていない(乙二四の1~9、甲三)。したがって、前叙のとおり「田畑用発芽助長保護マット」という用語を統一して用いた本件考案の願書及び明細書の記載からすれば、本件考案は、文理的には、田畑用発芽助長保護マットの考案と理解するよりほかない。
また、実質的にみても、明細書の考案の詳細な説明には、補正の前後を通じて、本件考案の使用目的について、「本考案は種子蒔後に田畑等の地表面に敷設して蒔種の発芽助長に適する保護マットに関するものである。従来、種子蒔後の発芽助長保護材としてわらが多く使用されているが、最近農作業の機械化が進み、稲刈は殆んど機械で行われ、この機械の場合稲は刈取と同時に短く切断されて田畑に蒔かれて耕地へ還元されるようになっているため、わら不足の状況になってきている。また、従来のわらでは雨風や野鳥(餌、巣として)により散逸したり、またわらの太さが殆んど一定で太いため種子の保温や発芽助長保護の面で欠点があった。本考案はこれに鑑みてなしたもので、蒔種の保温、発芽助長等に優れ、かつ経済的、合理的に工場生産できる主として田畑用として最適な保護マットを提供するものである。」(公報(1)1欄9行~24行、甲二四の1(1)頁13行~(2)頁11行)と記載され、また、実施例について、「上述の保護マットは種蒔後、田畑の地表面に敷設す〔敷いて用い〕るもので、時に適当箇所に揚子釘(竹串)等で以て差押えてもよい。種子発芽後もそのまゝ放置しておくと、保護マットは植物繊維より成るため自然に腐蝕して肥料となるものである。また、合成繊維等の耐蝕性繊維を混入した場合でも何ら支障なく経時的に自然に崩壊して土中に混入される〔。〕が、〔尚、〕上記耐蝕性繊維の選択によって又は前記耐蝕性繊維の量を増やすことにより、〔量を増やすことにより〕、種子の発芽後保護マットを撤去して再利用することも可能である」(〔〕かっこ内は当初明細書における記載を示す。公報(1)2欄21行~3欄3行、甲二四の1(3)頁7行~15行)と記載され、また、本件考案の作用効果について、「本考案に係る保護マットによる時は、主体構成繊維をやしの繊維で、特定範囲の空隙率と厚みを有するため、田畑に蒔いた種子の保温、発芽助長に極めて効果があり、……」(公報(1)4欄2行~5行)と記載されている。右記載によれば、本件考案は、産業上の利用分野として専ら農業を想定し、マットの再利用についても言及しているところからみると、本件考案の使用目的は、専ら田畑に蒔いた種子の保温、発芽助長効果のある、田畑用の発芽助長保護マットを提供するところにあるものと理解するほかない。
(原告の主張について)
原告は、明細書の考案の詳細な説明において、「田畑等」及び「主として田畑用」の表現があることを理由に、本件考案の発芽助長保護マットは、「田畑等の地表面」に敷設されるものであればよいのであって、ここでいう「田畑等の地表面」とは、その字義どおり種子が蒔かれて発芽生育することが可能な場所、すなわち種子を蒔くことが物理的に可能な地表面を意味するものであり、本件考案の保護マットを被告ら主張のように、みだりに田畑用に狭く限定解釈すべき必然性は全くない旨主張する。
しかし、明細書の考案の詳細な説明中の文言の意味・内容を解釈・確定するに当っては、その文言の言葉としての一般的抽象的な意味内容のみにとらわれず、そこに記載された考案の目的、その目的達成の手段としてとられた技術的構成及びその作用効果をも参酌して、その文言により表された技術的意義を考察したうえで、客観的・合理的に解釈すべきである。かかる見地から検討するとき、本件明細書の考案の詳細な説明の記載内容全体を通覧して考えると、本件実用新案登録出願人の出願当時の認識及び意図としては、その使用目的を専ら実用新案登録請求の範囲記載の「田畑用発芽助長保護マット」の字義どおり、「田やはたけ」すなわち農地に用いる発芽助長保護マットについて実用新案登録の設定を受けるとの認識及び意図で一貫していたことは明らかと認められる。
4 本件考案の出願経過からみた本件考案の内容
(一) 本件考案の出願経過
(1) 特許庁審査官は、昭和五八年三月二二日付で、本件実用新案登録出願について、「……該マットの厚さ及び空隙率を適宜選定することは保護マットの性質からして当然の設計事項と認められ、該保護マットの厚さ及び空隙率を本願考案のように限定することは当業者が極めて容易になし得たものと認める。しかも保護マットの厚さ及び空隙率を本願考案のように限定した点に格別な作用効果があるとも認められない。……」などの理由で拒絶査定をし(乙二四の5)、右査定書謄本は、その頃、原告に送達された。
(2) これに対し、原告は、特許庁に対し、同年五月二四日付で審判請求をする(乙二四の6)とともに、同年六月二二日付で審判請求理由補充書(乙二四の7)及び手続補正書(乙二四の8)を提出し、実際にマットの厚さ及び空隙率を変化させて発芽率を測定した実験値データ等を提示した。原告は右審判請求理由補充書において、「……原審査において本願の拒絶理由に引用された〈1〉実公昭四七-二三六〇八号公報(第1引用例〔α考案・裁判所注記〕)〈2〉特開昭五一-一一四二二七号公報(第2引用例〔γ発明・裁判所注記〕)のうち、第1引用例は林業、土木工事に用いる土砂被覆材に関するもので、繊維に屈曲性を付与せしめ各繊維の交点を接着材を以て締結させて版状体にしたものが示されているが、本願のものとは物品が相異するばかりか、その目的・作用が全く異るものであります。しかも、本願考案の要旨たる保護マットの厚さ・空隙率に関しての具体的構成は示されておらず、またそれを示唆する記載も見られません。また、第2引用例は「二~一二ケ月被覆後は容易に単繊維に分解してシートの形態を失うものであるごとき」栽培用被覆資材であり、次年度作のために培地を耕さんとするときまでに被覆資材が完全に腐蝕分解しなければ、剥ぎとり廃棄物処理を要するものであり、引用発明は之を避けるため腐蝕分解が必須要件であります。然しながら本願は腐蝕を最重要の用件(要件の誤記と認める。裁判所注記)とするものではありません。しかも、本願考案の要旨たる保護マットの特定の空隙率・厚さに関しては何ら記載されておらず、またそれを示唆する記載も見られません。……本願の要旨たる〈1〉 主体構成繊維を太さの略一定な例えばやしの繊維のような細い植物繊維を以てした点、〈2〉 この構成繊維を、空隙率七五~九八%有する状態で絡ませて二~五m/m厚さのマット状に構成する点、〈3〉 上記構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着した点、の極めて限定したる特定の構成については、前記いずれの引用例にも全く示されておらず、また、それを示唆する記載もありません。」((2)頁15行~(4)頁10行)と主張した。
(3) 特許庁審判官は、昭和六三年五月一六日付で、本件実用新案登録出願について、出願公告の決定をするとともに、平成元年二月一五日付で右拒絶査定を取り消し、本件考案は実用新案登録をすべきものとする旨の審決をし(乙二四の9)、本件考案はその後登録査定された。
右認定事実によれば、出願人である原告は、特許庁審査官の拒絶査定を受けたため、拒絶査定の理由とされた事項を回避して登録査定を受けるため、本件考案の技術的範囲を原告自身のいう「極めて限定したる特定の構成」に意識的に限定ないし特定したものであり、特許庁も、原告が出願時において認識ないし意図していた右技術的思想についてだけ実用新案を付与したものと認めるべきである。
5 原告出願にかかる先願発明との関係からみた本件考案の内容
(一) 先願考案
(1) 原告は、次の実用新案権(その考案を「先願考案」という。)を有している(甲九の1・2)。
考案の名称 緑化植生マット
考案者 藤井厚孝
出願日 昭和五四年一一月六日(実願昭五四-一五四二七九号)
出願公告日 昭和六三年七月二六日(実公昭六三-二七五四三号)
登録日 平成一年四月二五日
登録番号 第一七六七五九八号
実用新案登録請求の範囲
「耐蝕繊維を耐蝕性接着材で以て二~三m/m厚に且空隙率八〇~九八%有する状態に絡ませたマット1の上面に、合成樹脂製のネット5を貼着又は溶着すると共に、上記マット1の下面に、特に二枚の水溶性紙の中に種子、肥料を入れ水溶性接着材で貼合わせて一体にしたことを特徴とする緑化植生マット」(別添実用新案公報(2)参照)
(2) 公報(2)の考案の詳細な説明には、考案の目的について、「本考案は土木工事における各種盛土や造成地の法面の緑化に用いる緑化植生マットの改良に関するものである。従来盛土や造成地の法面の緑化には、わら芝が多く使用されているが、最近わらが不足してきておりその入手が困難になってきている現状である。また、従来のわら芝では種子の保温効果や発芽率の点で問題があり、また敷設後雨水による種子の流失やわら芝の崩壊等の欠点がある。本考案はこれに鑑みてなしたもので、経済性に優れ、発芽率も良好で、かつ敷設後雨水による崩壊もなく、しかも簡単に施工できる緑化植生マットを提供するものである。」(公報(2)1欄10行~22行)との記載があり、同説明中には、前記本件考案の出願審査に際して提出された審判請求理由補充書・手続補正書(乙二四の7、8)に示された実験値と同一の実験値データ(但し、本件補正書のもの以外に製品の厚さ五m/mのものの実験値データが付加されている。公報(1)3欄12行~27行、公報(2)3欄12行~27行)が引用されている。
(二) 先願考案との関係からみた本件考案の内容
先願考案の右実用新案登録請求の範囲の記載の構成と本件考案のそれを対比すると、〈A〉 先願考案の主体構成繊維である「耐蝕繊維」は本件考案の主体構成繊維である「やしの繊維のような細い植物繊維」の上位概念であると認められ(公報(2)の考案の詳細な説明には、「本考案に用いる耐蝕性繊維としては、やしの実の繊維、ホップの葉脈、或いはナイロン等の合成繊維等で……」〔公報(2)2欄4行~6行〕との記載がある。)、〈B〉 先願考案の主体構成繊維の空隙率八〇~九八%は、本件考案のそれ七五~九八%の範囲内であり、〈C〉 主体構成繊維をマット状に成すことについては、先願考案と本件考案とで共通であり、マット厚の範囲が二~三m/m(先願考案)と二~五m/m(本件考案)とで若干異なるが、先願考案は本件考案の範囲内にあるものであり、〈D〉 マット成形耐蝕性接着剤を用いる点では先願考案と本件考案は同一である。
結局、先願考案(出願は本件出願の約四か月前である。)と本件考案の実質的差異は、〈1〉 「マットの下面に、特に二枚の水溶性紙の中に種子、肥料を入れ水溶性接着材で貼合わせて一体にする」構成を付加した点と〈2〉 対象物を土木工事用資材としての緑化植生マットとした点にあるものと認められる。右事実に、先願考案も本件考案も考案者が同一人で、出願人も同一人(原告)である事実を併せ考えると、本件実用新案登録出願人たる原告は、本件考案にかかる保護マットが土木工事用の緑化植生保護マットにも転用可能の物であることを十分承知のうえで、本件考案の対象物としては、先願考案が目的とする土木工事用資材としての緑化植生マットを意識的に除外し、本件考案の対象を意識的に「田畑用発芽助長保護マット」に限定して実用新案登録出願をしたことは明らかである。
(三) 原告会社の土木工事用マットに関するその他の出願の存在
なお、右先願考案の他に、発明者ないし考案者が本件考案と同一人の藤井厚孝、出願が原告ないしその親会社である共英製鋼株式会社である、土木工事用マットに関する特許ないし実用新案登録の出願は少くとも次のとおり多数あるから、これらの事実からみても、本件実用新案登録出願人たる原告が、本件考案にかかる保護マットが土木工事用の緑化植生保護マットに転用可能の物であることを十分承知のうえで、本件考案の対象物としては土木工事用の緑化植生マットを意識的に除外し、本件考案の対象を意識的に「田畑用発芽助長保護マット」に限定して実用新案登録出願をしたことが明らかである。
(1) 特許第五八九二五〇号(甲五の1)
発明の名称 土木工事用マット
出願日 昭和四〇年八月四日(特願昭四〇-四七五八九)
(2) 特許第七二一二〇〇号(甲五の2)
発明の名称 護岸・土留其他の擁壁に於ける透水流其他の排水等に依る基礎構成土砂の流出防止法
出願日 昭和四〇年一二月二四日(特願昭四〇-七九七九五)
(3) 特許第六三三四四四号(甲五の3)
発明の名称 築堤・水路などに於ける防砂、水出工法
登録日 昭和四七年二月四日
(4) 特許第六六四〇一一号(甲五の4)
発明の名称 築堤、平坦地等に於ける水出工法用抽水体
出願日 昭和四一年一二月二七日(特願昭四二-八五七)
(5) 実用新案登録第一七五八三二一号(甲五の13)
考案の名称 緑化植生盤
出願日 昭和五四年二月二六日(前特許出願日援用、実願昭五六-一九六七七三)
(6) 実用新案登録第一七六七五九八号(甲五の14)
考案の名称 緑化植生マット
出願日 昭和五四年一一月六日
6 本件出願前における被告製品及び同種製品の存在からみた本件考案の内容
(一) 被告製品の存在
証拠(乙七~九、一三の1・2、一四、一五、二二、二三の1・2、二六、三〇の1・2、検乙一の3、証人鈴木功、同八木一夫)によれば、被告会社は、本件考案の内容を知らずに、被告製品を研究開発して、これを三重県の建設工学株式会社に対し、少くとも、本件実用新案登録出願前の〈1〉 昭和五四年一二月一九日に四〇〇m2、〈2〉 昭和五五年一月二四日に五六〇m2、同出願直後の〈3〉昭和五五年三月二六日に七二〇m2、それぞれ販売し、右各製品は建設工学株式会社から同県内の朝日丸海事有限会社に納入され、同県の発注にかかる道路工事現場の法面緑化植生工事に使用されたことが認められる。
(二) 同種製品の存在
証拠(乙一〇、一一の1・2)によれば、〈1〉 訴外ロック建設株式会社は、本件実用新案登録出願前の昭和五〇年六月から五四年一〇月にかけて、愛知県内の道路工事現場の法面緑化植生工事に厚さ一~三m/mのやしマット(但し、同社の商品名はヤシネット)を使用したこと、〈2〉 訴外第二建設株式会社は、本件実用新案登録出願前の昭和五二年四月兵庫県内の道路工事現場の、昭和五三年一一月鳥取県内の道路工事現場の、それぞれ法面緑化植生工事に厚さ五m/mの天然繊維マットを使用したことが認められる。また、右証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、右各マットは、被告製品と同様、本件考案の構成要件AないしDを充足するものと推認することができる。
(三) 被告製品及び同種製品との関係からみた本件考案の内容
本件実用新案登録出願前に既に、土木工事用資材としての法面緑化植生工事用マットである点が本件考案の田畑用発芽助長保護マットと相違する以外は、本件考案のその余の構成要件すべてを充足する天然繊維マットが開発使用されていた事実に鑑みると、本件考案の技術的範囲に被告製品のような土木工事用資材としてのやしマットを含むとすれば、本件実用新案登録には明らかな無効事由があるといわなければならず、この点からみても、本件考案は田畑用発芽助長保護マットに限定されるというべきである。
7 まとめ
以上の諸点に鑑みると、本件考案は田畑用発芽助長保護マットに限定されると認めるのが相当であるから、土木工事用工事資材である被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。したがって、この点において既に原告の本訴請求はすべて理由がない。
【争点2(被告会社は、本件実用新案権について、先使用による通常実施権を有するか)】
《事実関係》
証拠(乙七~九、一三の1・2、一四、一五、二二、二三の1・2、二六、三〇の1・2、検乙一の3、証人鈴木功、同八木一夫)によれば、被告会社は、本件考案の内容を知らずに、被告製品を研究開発して、これを三重県の建設工学株式会社に対し、少くとも、本件実用新案登録出願前の〈1〉 昭和五四年一二月一九日に四〇〇m2、〈2〉 昭和五五年一月二四日に五六〇m2、同出願直後の〈3〉 昭和五五年三月二六日に七二〇m2、それぞれ販売し、右各製品は建設工学株式会社から同県内の朝日丸海事有限会社に納入され、同県の発注にかかる道路工事現場の法面緑化植生工事に使用されたことが認められる。
原告は、右事実を争い、被告提出援用の右証拠を論難するが、右証拠に加えて前記同種製品の存在(乙一〇、一一の1・2)の事実を併せ考えると、右事実認定に関する原告主張は採用できない。
《判断》
前記認定の事実関係によれば、仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告会社は、本件考案の内容を知らずに自ら被告製品を研究開発し、本件実用新案登録出願日である昭和五五年三月二二日当時、現に日本国内においてその製造販売事業を行っていたのであるから、被告製品の製造販売事業において本件実用新案権につき通常実施権を有することを認めることができ、したがって、被告会社の被告製品の製造販売行為は本件実用新案権を侵害するものではないというべきである。
《原告の主張について》
原告は、この点に関して、被告会社を下請として技術指導しながら被告製品を製造させていたかのように主張するが、本件考案の考案者であり、原告の実質的経営責任者でもある原告申請の証人藤井厚孝自身、原告において被告会社を技術指導したのは、昭和四七年の被告会社のシートマット製造開始の立ち上がり時期のみである旨明確に証言するところであり、本件全証拠によるも右主張事実を認めるに足りない。
【結論】
以上によれば、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さず、仮にそうでないとしても、被告会社は、被告製品の製造販売事業において本件実用新案権につき先使用による通常実施権を有するから、本件実用新案権の侵害を前提とする原告の被告らに対する本訴請求はいずれも、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
二 反訴請求について
【争点1(一)(原告が、不正競争防止法一条一項六号所定の「虚偽の事実の陳述、流布の行為」をしたか】
本訴請求について判断したとおり、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さず、仮にそうでないとしても、被告会社は本件実用新案権につき先使用による通常実施権を有するから、被告会社の被告製品の製造販売行為は本件実用新案権の侵害を構成しないものというべきである。
したがって、被告製品が本件考案の技術的範囲に属し、それを土木工事に使用したり販売したりする行為は本件実用新案権の侵害になる旨記載した本件警告書は、原告と競争関係にある被告会社の営業についての虚偽の事実が記載されているものというべきであり、右事実は被告会社の営業上の信用を害するものであることが明らかであるから、原告の本件警告書の送付行為は不正競争防止法一条一項六号に規定する他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の陳述、流布の行為にあたるものというべきである。そして、ある物件の構造が、当該考案の技術的範囲に属するか否か、実用新案権の侵害を構成するか否かの判断は、専門的知識を必要とする困難な法的判断であり、しかも一方、取引先への実用新案権侵害の警告は、侵害者と名指しされた者にとっては致命的な打撃を与えることになりかねないから、実用新案権侵害についての警告の可否及び具体的な警告態様の選択等の判断に際して、実用新案権者に対し、高度の注意義務が課されることになるのも誠にやむを得ないところであって、特に本件においては、原告の違法な警告文書は、前記認定のとおりいずれも代理人弁護士の名において送付されていることが認められ、かような場合原告の注意義務の程度は代理人弁護士の一般的注意能力をも参酌して決すべきものであると解すべきであるからなおさらというべきである(弁護士名による警告文書は、一般人のものより、警告の程度が強大と考えられる。)。
【争点1(二)(原告が賠償すべき被告会社に生じた損害〔営業上の信用段損による損害〕の金額)】
証人八木一夫の証言及び乙第二九号証によれば、被告会社は、本件警告書の送付による前記虚偽の事実の陳述、流布の行為により、被告会社の営業上の信用が毀損せられ、被告会社が無形の損害を被ったことが認められる。
この点に関し、原告は、リコー建設株式会社及び日本緑研株式会社は、平成二年三月一九日頃到達の原告宛ての各内容証明郵便(甲六、七)において、本件警告書に対して詳細な反論を加えており、本件警告書の送付によって被告会社の営業上の信用が毀損されたとはいえない旨主張するが、右反論は被告らの主張と同一であり、被告らの主張を丸写ししたものと推認できるところ、右被警告会社は、これらの主張の当否を判断するに足りる事実関係を調査確定できる能力を有しているとは考えられず、半信半疑の状態でこれらの反論をしたものと認めるのが相当であるから、右原告主張は採用することができない。
ところで、本件において、被告会社は、原告に対し、右営業上の信用毀損による損害五〇〇万円の賠償を請求する一方で、別途反訴提起に伴う弁護士費用三〇〇万円を、原告による前記虚偽の事実の陳述、流布の行為により、被告会社の被った損害費目として計上し、その賠償を請求(本訴の応訴に伴う弁護士費用損害の賠償と一括請求)しているところ、不法行為の被害者が損害賠償請求権を現実に行使するに際して要した弁護士費用については、本来の不法行為による損害の一部を構成するものと考えられ、本件においても、被告会社主張の右弁護士費用は、相当額の範囲内で前記原告の不正競争防止法一条一項六号所定の虚偽の事実の陳述、流布の行為という不法行為から通常生ずる損害とみることができるから、本件においては、右両損害を一括して、被告会社が原告の虚偽の事実の陳述、流布の行為によって受けた損害として把握し、これを全体として金銭的に評価するのが相当と考える。
そこで、かかる観点から原告の虚偽の事実の陳述、流布の行為によって被告会社の被った営業上の信用毀損による損害額について考えるに、原告の本件警告書の送付行為の内容、特に虚偽事実の内容と本件警告書の送付を始めた時期、送付対象及び送付した期間等を総合すると、被告会社の被った前記無形損害は、反訴提起に伴う弁護士費用損害も含め合計二〇〇万円と評価するのが相当である。
【争点2(一)(本訴は不法行為を構成する不当な提訴か)】
《事実関係》
乙第一五号証ないし第二一号証に証人鈴木功、同八木一夫及び同藤井厚孝の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告の本訴提起に至る経緯及び原告の本件考案の実施状況に関して、次の事実が認められる。
1 被告会社は、昭和四五年頃から不織布の製造販売を開始し、昭和四七年頃以降は不織布を用いた土木工事用資材のシートマットを製造販売していた。
2 被告会社は、当初共英製鋼株式会社(原告の主張によれば、同社の土木工事部門が独立して昭和五三年に設立されたのが、承継前の原告共英土木工学株式会社である。)の注文により厚さ一〇ミリメートル以上の土木工事用資材のシートマットを製造し、これを相手先ブランドで販売する契約(OEM契約)のもとに原告に供給していたが、同製品を原告以外の取引先にもOEM契約のもとに供給し、少量は自社ブランドでも販売していた。
3 被告会社は、昭和五四年初め頃自社工場が焼失したことを契機に同年六月頃から全製品を自社ブランドでの販売に切り換えると同時に三ミリメートル厚の製品(被告品番N-3〔当初はNC-3〕・被告製品)及び五ミリメートル厚の製品(被告品番N-5)を自社で研究開発し、その頃から右各製品の製造販売を開始し、現在に至っている。
4 被告会社は、この間昭和五七年三月頃から昭和五九年一一月頃まで、原告に対し、継続して右三ミリメートル厚製品N-3(被告製品)及び五ミリメートル厚製品(N-5)を販売し、この間、原告は、被告会社が右各製品を他社にも被告会社のブランドで供給していることを知悉していたが、取引継続中は勿論、取引中断後も、さらには本件考案の実用新案登録の出願日である昭和五五年三月二二日以後も、被告会社による右製品N-3(被告製品)及び製品N-5の製造販売に関して何らの異議も述べなかった(この点に関して、証人藤井厚孝は、実用新案登録出願をしても、それが登録査定されるまでは、侵害者に対して何らの法的措置も講じられないと思っていた旨証言するが、本件考案の考案者でもある同証人は、他にも一〇〇件近くの特許及び実用新案の登録出願の経験があるというのであるから、右証言は誠に不自然で俄かに措信し難い。)。
5 ところが、原告は、平成元年五月二六日本件考案が登録査定されると、被告会社との間で格別の事前交渉もないまま、同年一一月二一日付で原告訴訟代理人後藤次宏から被告会社に宛てて左記要旨の内容証明郵便(乙一七)による警告書を送付した。
「一 貴社において「植生用ヤシマットN-3」と称して製造、販売をしておられます法面保護材料は通知人が有する実用新案権第一七七一〇三三号の技術的範囲に属するものです。
二 通知人は実用新案法に基づき、その製造及びその販売の停止、侵害行為に供した設備の除去、侵害行為の組成した物の破棄を求めるものです。
三 つきましては、本件に対する貴社の処置並びに貴社が昭和六三年九月一日以降に製造及び販売をされました「植生用ヤシマットN-3」の製造数量、販売数量、その時期各金額を本書到達の日から一〇日以内に通知すべく求めます。
四 もし、右期間内に誠意ある回答なき場合は、法的措置を採らせて頂きます。」
6 これに対し、平成元年一二月四日付で被告ら輔佐人弁理士蔦田正人から原告訴訟代理人後藤次宏に宛てて左記要旨の内容証明郵便(乙一八)による回答をした。
「貴信によれば、貴社は、当社が製造販売する「植生用ヤシマットN-3」(以下本件製品という)が貴社ご所有の登録実用新案第一七七一〇三三号の技術的範囲に属する旨主張されます。
しかしながら、当社は、本件製品を本件実用新案の出願前より製造販売していたものであります。また、当社の右製造販売より更に前から、本件製品と同一の製品が他社により製造販売されていた事実もあります。更にまた、当社は、本件製品と同一の構造を有し厚みのみを異にする製品も本件実用新案の出願前より製造販売しております。
以上の通りですので、仮に、貴社ご主張のとおり本件製品が本件実用新案の技術的範囲に属するものとすれば、本件実用新案はその出願前公知のものであると言わざるを得ず、実用新案としての登録性を有しないものであります。」
7 原告は、右回答に納得せず、その後前記認定のとおりリコー建設株式会社及び日本緑研株式会社に対し本件警告書の送付行為に及び、平成二年四月一九日に本訴を提起するに至った。
8 本件全証拠によるも、本件考案の登録査定の前後を通じて、原告が、本件考案の実施品を農業用資材としてパンフレット等に掲載し宣伝販売した事実を認めるに足りる証拠はない(原告は、原告製品サンドマットSB-3が本件考案の実施品である旨主張するが、甲第四号証の原告製品のパンフレットによれば、右製品は、「洗堀防止・吸出し防止 軟弱地盤安定用」の表題の下に掲載され、説明文中には「このタイプの製品は、……吸出し防止を主目的とした工法に幅広く利用されています。」と説明されており、これが被告製品と同様土木工事用資材として宣伝販売されていることは明らかである。)。
《判断》
被告らは、原告の本訴提起行為が不法行為を構成する旨主張するが、訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限られるものと解するのが相当である(最判昭和六三・一・二六民集四二巻一号一頁参照)。これを本件についてみると、前記認定の事実関係、特に原告と被告会社間の被告製品に関する過去の取引関係と本件考案の実用新案登録請求の範囲に考案の対象物が「田畑用発芽助長保護マット」と明記されていること及び原告の本件考案の実施状況に照らせば、本訴提起に際してなすべき調査義務を十分尽くさなかった懈怠が原告にあることは明らかであるけれども、本訴請求権が根拠のないものであることを知りながらあえて提訴したなど、原告において訴権の濫用に当たるような目的で提訴したとも認められず、結局、本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとまでは認めることができない。
そうすると、原告の本訴の提起には、いまだ不法行為としての違法性があったものとまでは認めることができないから、被告らのこの点に関する反訴請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく理由がない。
【結論】
以上によれば、被告会社の反訴請求は、原告に対し、損害賠償二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成二年四月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるが、同被告のその余の反訴請求及び被告田中の反訴請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 結語
以上の次第で、原告の本訴請求はすべて理由がなく、被告らの反訴請求は、被告会社において原告に対し二〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官辻川靖夫は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 庵前重和)
物件目録
主体構成繊維を太さの略一定のやしの繊維を以てし、この構成繊維を、空隙率約九三%~九五%を有する状態に絡ませて、約三m/m厚さのマット状に成すとともに、上記構成繊維の交叉部分を一般の土木工事用やしマットの製造に使用されている非水溶性接着剤で以て接着した、土木工事用資材のやしマット(被告商品名商品番号ニードフルマットN-3)
公報(1)
〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告
〈12〉実用新案公報(Y2) 昭63-32621
〈51〉Int.cl.4A 01 G 13/00 識別記号 庁内整理番号 7416-2B 〈24〉〈44〉公告 昭和63年(1988)8月31日
〈54〉考案の名称 田畑用発芽助長保護マツト
審判 昭58-11920 〈21〉実願 昭55-37971 〈55〉公開 昭56-138563
〈22〉出願 昭55(1980)3月22日 〈43〉昭56(1981)10月20日
〈72〉考案者 藤井厚孝 大阪府堺市南三国ケ丘町3丁2の20
〈71〉出願人 共英土木工学株式会社 大阪府大阪市北区西天満4丁目11番8号(太源異業ビル)
〈74〉代理人 弁理士 林清明
審判の合議体 審判長 長尾達也 審判官 藤文夫 審判官 徳廣正道
〈56〉参考文献 特開 昭51-114227(JP、A) 実公 昭47-23608(JP、Y1)
〈57〉実用新案登録請求の範囲
主体構成繊維を太さの略一定な例えばやしの繊維のような細い植物性繊維を以てし、この構成繊維を、空隙率75~98%有する状態に絡ませて2~5m/m厚さのマツト状に成すと共に、上記構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着したことを特徴とする田畑用発芽助長保護マツト。
考案の詳細な説明
本考案は種子蒔後に田畑等の地表面に敷設して蒔種の発芽助長に適する保護マツトに関するものである。
従来、種子蒔後の発芽助長保護材としてわらが多く使用されているが、最近農作業の機械化が進み、稲刈は殆んど機械で行われ、この機械の場合稲は刈取と同時に短かく切断されて田畑に蒔かれて耕地へ還元されるようになつているため、わら不足の状況になつてきている。また、従来のわらでは雨風や野鳥(餌、巣として)により散逸したり、またわらの太さが殆んど一定で太いため種子の保温や発芽助長保護の面で欠点があつた。
本考案はこれに鑑みてなしたもので、蒔種の保温、発芽助長等に優れ、かつ経済的、合理的に工場生産できる主として田畑用として最適な保護マツトを提供するものである。
即ち、本考案は主体構成繊維を太さの略一定な例えばやしの実の繊維のような植物性繊維を以てし、この構成繊維を、空隙率75~98%有する状態に絡ませて2~5m/m厚さのマツト状に成すと共に、上記構成繊維の交叉部分を耐蝕性接着材で以て接着したことを特徴とするものである。
以下本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
本考案に用いる主体構成繊維としては、主としてやしの実の繊維の植物性繊維を用い、時にはこれに合成繊維例えばナイロン等の合成繊維等適当量混入したものを用い、この繊維1、1…を直線状のままか、撚つてパーマ状とし、これを7~98%の空隙率を存した状態で絡ませて2~5m/m厚さのマツト状に配列して構成する。
次に、このマツト状に成したものにスプレー法(または浸漬法)等により耐蝕性接着材2を吹付け等を行つて、上記繊維の交叉部分を接着して所望の保護マツト3を形成する。
ところで、上記主体構成繊維の太さは、やしの繊維が細く略一定の太さであるため、保護マツトの寸法や厚さまた密度等は適用する種子の種類等によつて発芽助長、発芽保護の目的に応じて適宜決定し易いものである。
よつて、上述の保護マツトは種蒔後、田畑の地表面に敷設するもので、時には適当箇所を揚子釘(竹串)等で以て差押えてもよい。種子発芽後もそのまま放置しておくと、保護マツトは植物性繊維より成るため自然に腐蝕して肥料となるものである。また、合成繊維等の耐蝕性繊維を混入した場合でも何ら支障なく経時的に自然に崩壊して土中に混入される。尚、上記植物性繊維の選択によつて又は前記耐蝕性繊維の量を増やすことにより、種子の発芽後保護マツトを撤去して再利用することも可能である。
次、保護マツトの厚さを1m/m、3m/m、10m/mにそれぞれして、マツトの空隙率を90%にしたもの(A)と60%にしたもの(B)について種子の発芽率を測定した実験値は次の通りである。
(A)空隙率 90%
種子の発芽率
製品の厚さ 1ケ月目 3ケ月目 6ケ月目 1年後
1m/m 85% 78% 30% 13%
3〃 88〃 95〃 95〃 95〃
10〃 13〃 25〃 22〃 10〃
(B)空隙率 60%
種子の発芽率
製品の厚さ 1ケ月目 3ケ月目 6ケ月目 1年後
1m/m 80% 57% 22% 8%
3〃 82〃 89〃 84〃 69〃
10〃 15〃 28〃 20〃 12〃
※ 基準発芽率80%/1年に達しないものは不合格となる。
よつて、上表より明らかなように、厚さ2~3m/mで且空隙率80~98%のものが、基準発芽率に合格する最適であることが判明した。
従つて、本考案に係る保護マツトによる時は、主体構成繊維をやしの繊維で、特定範囲の空隙率と厚みを有するため、田畑に蒔いた種子の保温、発芽助長に極めて効果があり、また雨風や野鳥の飼となりまた野鳥に散逸させられることもなく、しかも雨叩きを防止することができる。本考案における空隙率及び厚さは発芽の助長・保護とともに、生産性を高めるため重要な数値であり、このためにもやし繊維は太さは細く略一定で絡み易いので一定形態維持が容易であり、且マツトの完成体積を自由に調整できるので、需要に適合した寸法・厚さ・密度(繊維の量)等のものを機械的に工場生産でき、しかもその品質管理・保管・敷設も極めて簡単である等のすぐれた利点を有するものである。
図面の簡単な説明
図面は本考案に係る保護マツトを示し、第1図は斜視図、第2図は拡大図である。
1……繊維、2……耐蝕性接着材、3……保護マツト。
第1図
〈省略〉
第2図
〈省略〉
公報(2)
〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告
〈12〉実用新案公報(Y2) 昭63-27543
〈51〉Int.Cl.4A 01 C 1/04 // B 32 B 5/00 E 02 D 17/20 識別記号 庁内整理番号 6838-2B 7199-4F 102 7151-2D 〈24〉〈44〉公告 昭和63年(1988)7月26日
〈54〉考案の名称 緑化植生マツト
審判 昭57-18002 〈21〉実願 昭54-154279 〈65〉公開 昭56-71112
〈22〉出願 昭54(1979)11月6日 〈43〉昭56(1931)6月11日
〈72〉考案者 藤井厚孝 大阪府堺市南三国ケ丘町3丁2の20
〈71〉出願人 共英土木工学株式会社 大阪府大阪市北区西天満4丁目11番8号(太源異業ビル)
〈74〉代理人 弁理士 林清明
審判の合議体 審判長 長尾達也 審判官 斎藤利久 審判官 徳廣正道
〈56〉参考文献 実開 昭50-118705(JP、U) 実開 昭50-121506(JP、U)
〈57〉実用新案登録請求の範囲
耐蝕繊維を耐蝕性接着材で以て2~3m/m厚に且空隙率80~98%有する状態に絡ませたマツト1の上面に、合成樹脂製のネツト5を貼着又は溶着すると共に、上記マツト1の下面に、特に2枚の水溶性紙の中に種子、肥料を入れ水溶性接着材で貼合わせた種子マツト2を貼合せて一体にしたことを特微とする緑化値生マツト。
考案の詳細な説明
本考案は土木工事における各種盛土や造成地の法面の緑化に用いる緑化植生マツトの改良に関するものである。
従来盛土や造成地法面の緑化には、わら芝が多く使用されているが、最近わらが不足してきておりその入手が困難になつてきている現状である。また、従来のわら芝では種子の保温効果や発芽率の点で問題があり、また敷設後雨水による種子の流失やわら芝の崩壊等の欠点がある。
本考案はこれに鑑みてなしたもので、経済性に優れ、発芽率も良好で、かつ敷設後雨水による崩壊もなく、しかも簡単に施工できる緑化植生マツトを提供するものである。
即ち、本考案は耐蝕繊維を耐蝕性接着材で以て2~3m/m厚に且空隙率80~98%有する状態に絡ませたマツトの上面に、合成樹脂製のネツトを貼着又は溶着すると共に、上記マツトの下面に、特に2枚の水溶性紙の中に種子、肥料を入れ水溶性接着材で貼合せた種子マツトを貼合せて一体にしたことを特徴とするものである。
以下本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
本考案に用いる耐蝕性繊維としては、やしの実の繊維、ホツプの葉脈、或いはナイロン等の合成繊維等で、この耐蝕性繊維を用いて直線状のままか、撚つてパーマ状とし、これを80~98%の空隙率を存した状態で絡ませると共に耐蝕性接着材で以てブリツジ状につないで、2~3m/m厚のマツト1を構成する。また、2は種子マツトで、この種子マツト2は2枚の水溶性紙の間に種子、肥料3を適当量入れて、水溶性接着材で以て貼合せたものである。
そして、上記マツト1と種子マツト2とを水溶性の接着材4で以て貼合せて一体にする。次に上記マツト1の上面には合成樹脂製のネツト5を接着剤で以て貼着するか、又は溶着する。尚溶着する場合はネツト5は熱可塑性樹脂で以て造るものである。よつてネツト5、マツト1及び種子マツト2の三者を一体にして所望の大きさの緑化植生マツトAを形成するものである。
上述の如く構成した緑化植生マツトAは盛土や造成地の法面の緑化箇所に種子マツト側を下にして敷いて、揚枝釘(竹串)等で以て差押えて敷設する。そして水溶性紙、水溶性接着材を用いるので、雨水、散水により数日~数週間で緑化植生マツトから発芽し、盛土や造成地の法面に根が張付くと共に法面が緑化される。
このように本考案は構成の概念を以て要旨とするものではなく、その耐蝕性接着材を以て2~3m/m厚で且空隙率80~98%を有する耐蝕性繊維を絡ませた特定のマツトと、之れに特定の種子マツト(2枚の水に溶け易い紙の中に種子や肥料を入れた)を水溶性接着材で貼合せたと云う限定したる構造を以て特徴とするものである。
次に、厚さを1m/m、3m/m、5m/m、10m/mにそれぞれしてマツトに空隙率を90%にしたもの(A)と60%にしたもの(B)について種子の発芽率を測定した実験値は次の通りである。
(A)空隙率 90%
種子の発芽率
製品の厚さ 1ケ月目 3ケ月目 6ケ月目 1年後
1m/m 85% 78% 30% 13%
3〃 87〃 93〃 93〃 93〃
5〃 75〃 78〃 66〃 48〃
10〃 13〃 25〃 22〃 10〃
(B)空隙率 60%
種子の発芽率
製品の厚さ 1ケ月目 3ケ月目 6ケ月目 1年後
1m/m 81% 58% 23% 8%
3〃 85〃 91〃 87〃 72〃
5〃 77〃 80〃 75〃 56〃
10〃 15〃 28〃 20〃 12〃
※ 基準発芽率80%/1年に達しないものは不合格となる。
よつて、上表より明らかなように、厚さ2~3m/mで且空隙率80~98%のものが、基準発芽率に合格する最適であることが判明した。
従つて、本考案による時は、種子マツトの上面に空隙率大なる耐蝕性繊維から成るマツトを一体に設けたので、簡単に施工できると共に雨水による崩壊や種子の流失もなく、しかも保温効果も良好で、発芽率もよく、各種盛土や造成地の法面を簡単に緑化できる。また、マツト上面にネツトを設けたので、敷設後、雨、風等によりマツトが崩壊することがない。さらに、工場で大量生産が可能なので経済性に優れ、しかも、輸送、保管等にも至便である等の効果を有するものである。
図面の簡単な説明
第1図は本考案に係る緑化植生マツトの斜視図、第2図は同断面図である。
A…緑化植生マツト、1…マツト、2…種子マツト、3…種子、肥料、4…接着材、5…ネツト。
第1図
〈省略〉
第2図
〈省略〉
実用新案公報
〈省略〉
〈省略〉
実用新案公報
〈省略〉
〈省略〉